その魔城に一人の青年が乗り込んできた。彼は魔竜に最愛の人を奪われ、彼女の復讐のために城へと乗り込んできたのだ。
「――っ、誰だ……お前…」
あれほど恐れられていた魔竜達が青年の手にかかり、殺されていた。復讐というエゴの刃が彼を強くしたのだろうか…、青年が通った後は剣で引き裂かれた魔竜の死骸が散らばっていた。
(アーナ、これが終わったら僕もそっちに行くから…)
青年は悲しそうな眼で自分の手を見た、その手は魔竜の血で赤く染まっていた。
城の二階のある部屋の前、この先に王室がある。青年は扉に手を掛けようとした。だが一瞬ふらついて体勢を崩してしまった。
(やばいな、なんかさっきから耳鳴りが酷いや…)
耳鳴りを我慢しながら彼は扉を開けた。
王室だけあって案外広かった、そこにまだ若い魔竜がいた。
「やっと来たね、意外と早かったかな?」
この魔竜がこの城の長である。
「しかし人間がここまでやるとは思わなかったな…」
「……」
青年は持っていた剣で魔竜を斬りかかろうとした。
「返事なしか……」
そういいながら、魔竜の長は腕一本でその剣を止めた。だが青年は剣を引こうとしない…魔竜は青年の顔を伺った。
「凄い目だな…たった一人で魔竜を殺してきたことだけのことはある」
そう言うと魔竜はもう一方の手で青年の腹を割いた。
「ぐはっ…」
青年から多量の血が流れ出た。
「でも、その刃じゃ僕は切れないよ」
剣は手から落ち、青年はその場に崩れた。
「あら、深く入っちゃったかな?」
崩れたまま動かない青年、だがまだ微かに息はある。
「やっぱり人間は脆い…」
そう言いつつも少し不満げな顔をした魔竜の長、しばらくすると彼はふと思い立ったような顔をした。
「折角だからちょっとした実験してみますか…」
魔竜は自分の手首に軽く傷を付けた。
「昔からの言い伝えなんだけど、魔竜の百匹の血を浴びた人間は同じ魔竜となるんだって。ちょうど手駒も減っちゃったことだし、君意外と強いですから…」
手首から流れる血、その血を数滴青年の身体に垂らした。
「――あッ、はぁ、が……ッ」
青年の体が震えだした。すぐに背中に黒い翼が形成された。手足も次第に変化し、身体の肥大化に伴い、着ていた服が破れた。
「グッバイ、ジェノサイダーさん」
「がぁァ……」
青年は頭を抱えた、頭部が変形し目の前にいる魔竜と同じ頭と化した。完全に魔竜と化した青年の眼は目の前にいる魔竜と同じ眼をしていた。
「どうです?最愛の人を奪った魔竜のお仲間に成った気分は…」
「……」
青年はそのまま気を失ってしまった。
「気絶してる……まぁいっか」
魔竜の長は不適に笑い、青年を背中に担いでそのまま部屋を後にした。
その数分後誰かが城に火を付けた。だが驚く事に焼け跡からは魔竜の死体が一体も出てこなかったという。その後魔竜の長と青年の行方は謎のままである…。